同い年の友達が、結婚した。
お相手は、一流大学の大学院を出て、
優良企業に勤める研究員である。
だがその点、私の友も全く引けを取っておらず、
有名女子大を出て、欧米等へ学会に出かける才女である。
と、いうことを結婚式に出るまで、すっかり忘れていた。
披露宴の祝辞を聞きながら、菜々子ちゃんが昔、
「来週から学会なの~」とか言ってたな、と思い出し、
色んなスピーチを聞きながら、改めて彼女の有能さを知り、
ふだん知らなかった面を聞いた。それは、次の通りである。
●入社倍率40~60倍の難関を突破してノーベル賞受賞者もいる研究所に入った。
(と、教授が仰っていた。私にはそんなことは一言も言ってなかった)
●日頃はノーメイクだが、この日はお化粧をしていてとても綺麗だった。
※1週間前に彼女は「(式では)お化粧するけど笑わないでね(笑)」
と言っていたが、笑うどころか美しかった。
さらには彼女の幼なじみが次のように彼女を評していた。
「奈々子ちゃんて、ピアノもテニスも何でも出来る。
出来ないことなんてないんじゃないかな?」
えーーーーーーーーーーーーーーーー!
だが、周囲もウンウンと頷いているではないか。
(知らなかった!奈々子ちゃん、もっと私に自慢して~)
しかし、そこが彼女の彼女たるゆえんを良く表しているエピソードである。
彼女は控えめな、女性なのである。
先ほどから聞いているとスーパーウーマンのようだが、
私から見ると普通の女性であって、
どっちかといえば、能力よりも性格が特筆の、心優しい人である。
おまけに、恥を晒すようだが、彼女はいつも私を褒めてくれるので、
私は自分が凄いのかと思っていたが、現実は反対であった。
(なんだ、勘違いしてたわ。裸の王様だったじゃないのー!)と、
空想の中にいる彼女をぽかぽか叩いた。さっそく彼女にこの話をしよう。
そしたら、きっと笑ってこう言うはずだ。
「えー、桜子ちゃん!私、何も出来ないよ~」
しかし。その日の彼女は、最初から最後まで才女のままだった。
私が知っている、「出来ないよ~」という奈々子ちゃんではなかった。
宴もたけなわで、私は頭の中がこんがらがっていった。
“私は彼女の友達じゃなかったっけ?”
“今までこんなに優秀な人の傍にいて、何も教えを乞うてこなかった・・・”
“いったい今まで彼女の何を見てきたのかしら?”
と、少なからずのショックを受けていた。
それでも、その日は結婚式だ。ともかくめでたい!と結婚を祝福し、
良い気持ちでさっさと眠ろうとして
・・・まったく、眠れなかった。
ベッドに入って電気を消した途端、
目から水がぽろっとこぼれた・・・。
“なにかしら、これは!? ”
結婚式と披露宴で、涙の1滴も流さなかったのに、
目からぽろぽろと涙が出ていた。
とまれ、と念じても止まらなかった。
出会ってから今日までの日々が走馬灯のように浮かんできて、
今すぐ彼女の声が聞きたくなってしまった。
だが、そんなことは結婚式初日に出来るわけもなく、
ただただ悲しくて、何が悲しいのかよくわからないまま、夜を過ごした。
そして、数日後。
悲しみは徐々に癒され、私には次第に結婚式の概要が分かってきた。
私にとって彼女は友達以上の、やはり家族ともいうべき、
身内の存在だったのである。
だから私の及ばない人(夫)の手に渡り、
知らない世界へ旅立ったのは悲しかった!
そして、最後に、彼女が結婚式で見せた姿。
あれは、コインの表であって、私が見ていたのはコインの裏側だったのである。
(※意味がわからない人はコインの裏側をクリック)
だから、私はそこで落ち込むよりむしろ、喜ぶべきだったのである。
両方の側面を知っているからである。
そんな単純なことに気づいたとき、私はとても嬉しくなった。
友達が結婚することは、かくも深いものである。
この年になって、また新たに結婚への想いを深めた。
と、私は心底、驚いた。