先月、一通のメールが来た。
「貴方に遭いたかった」
どうみても、スパムである。
さーくーじょ、とdelete(削除)ボタンを押す瞬間、手を止めた。
「From Iwao K」
なんだこりゃ、と思ったら岩男さんからのメールだった。
「今日貴方の顔を見に行きましたが、会えなくて残念でした」と書いてあり、
私はそれで先日の「俺よぅ、会社、辞めっからよぅ」と言った、岩男さんの言葉を思い出した。
岩男(62歳)さんは、NTTを定年退職したのち、我が社に再雇用された人材である。
一昨年同じフロアーで働いていたが、今年4月の人事異動による配属先では自分のスキルが生かせなかったようで、仕事をどうするか悩んでいた。
※もっとも私からみると岩男さんは退社しても生活に困る様子はなく、それはそれでアリな選択肢のようだった。
最終日の朝。
携帯で呼び出されたので1Fの玄関先にいったら、岩男さんは一人だった。
夕方にみんなに見送られて去ると思っていたが、用事が済んだから帰る、と言う。
こんなことなら大きな花束でも買っておくんだったと後悔しながら、私は用意していたお別れレターを手渡した。
岩男さんは「おめぇ・・・」と泣くしぐさをして、喜んでくれた。
そのしぐさにつられて私も笑った。最後まで、笑いを提供してくれる、この人は「お前がそう言うなら信じるよ」と以前言ってくれたことがあって、私にとっては寅さんみたいだった。
そして、次の台詞を残して、去っていった。
「早く、幸せになれよ!!」
そして、二度と振り返らなかった。
私は彼の背中をじっと見つめながら思った。
岩男さん、いまどきアラフォー近い私にその突っ込みをできるのはアナタだけ。
ホント、面白すぎ。
面白すぎるよ岩男さん。
いなくなって・・・寂しいよ。
by桜子