「店主」
毎朝、虎ノ門駅をおりて会社に向かう途中に、一軒のカレー屋さんがある。
私はこの店主とよく会う。もっとも、彼は私をまるで知らない。
私がこの店を通りかかるとき、店主はたいていテラスで開店準備をしている。
痛風と思われる歩きかたで、巨体をのっしのっしと揺さぶるように右左と体重移動をしている。
その姿を見るたび、思う。
苦しそう。もうすこし痩せたらいいのに(できないのだろう)。
すれ違うとき、いつも思う。命が心配だ。
朝会うと、ほっとする。
彼は私を知らないが、私にとっては朝のキャスターと同じくらい、彼は朝の顔である。
「宣伝文句」
虎ノ門にある、一軒のカレー屋さんには、気になることがまだある。
手書きの看板がそこここに置いてあるが、ヘタな字だ。
さらに謳い文句がヒドい。
「うまい!」
「うまいよ!」
このストレートな表現に朝からぶっ飛ぶ。
きっと店主が書いたと思う。憶測だが当たっている気が99%する。
通り過ぎるたび、思う。
代わりに書き直してあげたい。
私は救いを求めて、もっとましな看板はないのかと周辺を探し、1つ見つけた。
「うまい(ウコン入り)」
ちょっと笑った。
私はこのお店がとても気になる。
どうでもいいカレー屋さんなのに、どうでもよくない。
これだけ気になるから、一度はいってみようと思うが、一度もいったことはない。
たぶん一生いかないと思う。