その56:ユニクロ/ファーストリテイリング執行役員:白井恵美氏

 ユニクロが好調だ。

 衣料品専門各社が軒並み不振の中で、過去最高の売上高を記録している。ユニクロの持ち株会社であるファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長、柳井 正氏は、「ユニクロ」が好調なことや、社長への再就任後に業績を回復させた手腕などが評価され、日本の企業経営者が選ぶ2008年「今年の社長」に選ばれた。

 そんなユニクロのヒット商品を支えるのが白井恵美氏(執行役員・商品本部ウィメンズMD部部長)である。柳井氏から「女性にしては珍しく喧嘩をしながら一緒に仕事が出来る人」と評され、「日経ウーマン」誌が選ぶウーマン・オブ・ザ・イヤー2009で大賞を受賞した。

 白井氏が壇上に上がると、客席にいた同社の女性社員たちが肩を抱き合って喜ぶ姿が目についた。その白井氏自身もマイクを通して柳井社長へ二度もお礼を言っていた。そんな様子から、社員が結束していることが垣間見え、次のインタビューはぜひ彼女から話を聞こうと決めた。
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★白井恵美(しらいえみ/Emi Shirai)氏のプロフィール
1965年兵庫県生まれ。88年京都大学文学部卒業後、服飾の専門学校、英会話スクール勤務などを経て、ニューヨーク大学でMBAを取得。米デルコンピュータから2000年ファーストリテイリング(現ユニクロ)に入社。2007年からは同社執行役員。

★桜子が勝手に選ぶ、白井恵美語録
・自分一人しか思っていないのに自信満々(笑)。
・女性には自分自身でさえ過小評価している人が少なくない。
    自信さえ持てば伸びる人は結構多いと思うんです。

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桜子:まず白井さんから見て、柳井社長はどんな方ですか。

白井:すごく尊敬しています。常識に囚われず、物事の表面ではなく真実を見る方。
    ピュアな人です。
    世の中の動きにも敏感で、経済誌や本など、とてもよく読んでおられます。

桜子:そんな白井さんご自身も勉強熱心ですよね。

白井:どうでしょう? ただ、柳井には負けると思いますね。正直なところ(笑)

桜子:笑。普段はどんな勉強を?

白井:経済誌などは他の人も読んでいるので、社内で他人がやらないであろうこと
    ――私の場合は女性の需要を知ることが必要なので、経済誌のほかにも
    昼間のワイドショーを録画して見たり、女性誌を読みまくる、色んな女性の意見を
    聞くということをやっています。

 ユニクロの、女性向け商品を統括する白井氏は現在43歳。京都大学を卒業した優秀な女性だ。

 さぞキャリアウーマンとしての花道を歩んだに違いないと過去を聞けば、彼女が大学を卒業した時期は、男女雇用機会均等法が施行されてから3年目の1988年。当時はまだまだ女は早く結婚するのが当たり前という社会。就職活動を始める段になって、男性の同級生との扱いの差から初めて挫折を味わったという。大学卒業後は服飾関連の専門学校への進学や、ニューヨークへのMBA留学といった紆余曲折を経て、アメリカのデルコンピュータに入社。そして2000年にユニクロへ転職する。

 そんな白井氏が入社した2000年のユニクロは、フリースが大きなブームとなって、急成長していた時代だ。

桜子:入社1年で、実際に商品を企画するマーチャンダイジング部(以下、MD部)に
    志願されたと聞きました。短期間でよく新しい挑戦ができましたね?

白井:入社直後は経営計画部に配属されたのですが、そこでの経営に関する数字分析も
    面白かった。でもやっぱり、分析するだけに終わらず、分析したデータを元にした
    商品企画がやりたかったんですね。

 白井氏は服飾の専門学校にも通っていたように、元々はアパレル業界に興味を持っていた。商品企画を行うMD部は彼女が本来やりたかった道だったという。

 白井氏がMD部に配属された当時は商品企画関連の部署にはあまり人がおらず、ほぼ全員が男性。しかも彼らが女性向け商品も企画していた。そんな様子を見て「おかしいと思った」という彼女は、会議の場でどんどん意見を発信した。

桜子:会議の場所で発言できないサラリーマンは男女問わず多いものですが、
    白井さんはまったく物怖じしないという話をきいたのですが……。

白井:いや、まったく物怖じしなかったわけではないです。
    私なりに気を使っていたんですけど、とにかく当時は「女性だったらこう思う」と
    違う観点から物事を言ったので目立ったんですね。
    しかもこっそり言うんじゃなくて「絶対こうです!」と言ったんです。
   (女性と言ったって)自分一人しか思っていないのに自信満々(笑)。

 その結果、カシミヤセーター、ヒートテックといったヒット商品が続々と生まれていき、2005年には部長、さらに2007年には執行役員に就任した。

■周囲の人を巻き込んで、とことんやるのが白井スタイル
 現在、ウィメンズMD部は数十人の所帯である。その責任者である白井氏は販売の数字責任のすべてを負っている。以前はアパレル業界での経験がない彼女に耳を傾ける人がいなくて苦労をしたというが、今では実績がある。
     shirai-2_200x.jpg 右隅、私…。

 昨夏に女優の吹石一恵を起用したCMが話題となった「ブラトップ(ブラジャーのカップを内蔵したキャミソール)」は300万枚を売り切った。今年の冬シーズンには発熱保温下着「ヒートテック」がユニクロの店頭で品薄状態。ユニクロの単一商品としては過去最高の2800万枚を販売する見込みだという。

 そんな彼女は、現場でどのように仕事をしているのだろう。商品にかける思いを聞くと、納得できるまで改良を重ねるといった妥協しない姿勢にあるようだ。商品開発には多数の協力が必要であるがゆえに、携わる人すべての意識を高めて、巻き込んでいくことが要求される。中にはこの辺でいいじゃないかと言いだす社員もいなかったのかと尋ねたら、「うちは熱心なデザイナーがいるので一緒になってコレじゃないねと言い合った」と笑った。

桜子:つまりは周りの人を巻き込んだ仕事ができているのですね。

白井:そうですね。私は2005年にウィメンズインナーの責任者になり、
    ある意味で経営者と同じ。全責任は自分にあるから、私が諦めると
    そこでビジネスが終わってしまう。そう思うからこそ熱心にやるんです。

桜子:仕事に人を巻き込める秘訣は何でしょう?

白井:とにかく自分が正しいと思ったら何回も何回も言い続けるんですね。
    廊下で誰かとすれ違ったときでも、「あっ、ちょっと」と声をかける(笑)

桜子:なるほど(笑)

 心から仕事に打ち込んでいる白井さんの下では要求事項も多いことだろうが、一所懸命仕事をしたいと思う人にとってはやりがいのある仕事ができるに違いない。彼女が重要なポジションに就いて以来、女性向け商品の企画に携わる人間の4分の3が女性になった。

白井:男性の上司は意外に女性をよく過小評価する人が多いと私は思うんです。
    男性にはチャンスを与えても女性には与えなかったり、与えていないことすら
    気づいていなかったり。そこを私は意識的にチャンスを与えたい。
    「本当はあなたたちもっとできるんだから!」と。

桜子:ああ、これは絶対記事にきちんと書いておきたいです(頷く)

■自信を持ってやり抜く。そして数字も出す
 白井氏は2007年に流行語大賞になった、いわゆるアラフォー世代である。
今でこそ働く女性は企業にとって当たり前の存在だが、実は働く女性の歴史は20~30年とまだ浅く、結婚や出産、子育てといったライフイベントをいかにクリアすればいいのか指南する、お手本女性はまだ日本では数少ない。

 昨年、TBSドラマ「Around40」の主役を女優の天海祐希が演じたせいか、独身キャリアウーマンは華やかなイメージが強い一方で、アラフォー世代というのはかつて結婚と仕事の二者択一を迫られた時代から、多数の選択肢を与えられ、迷い戸惑いながら働く女性が案外多いものである。

白井:女性には自分自身でさえ過小評価している人が少なくない。
    自信さえ持てば伸びる人は結構多いと思うんです。

桜子:私も最近になってようやく周囲の目をふっきることができるようになって、
    ふてぶてしく仕事をするようになりました(笑)。

白井:私も言われていましたよ。言い過ぎるとか、キツいとか(笑)。

桜子:でも、本当の私は大和撫子なのにーって内心叫んだりして。

白井:そうそう。でも、それも言い方のバランスだと思うんですけどね。
    ただ、私の場合、結果を出すためにはキツいとか言い過ぎと言わても、
    確実に数字を出そうと全力を挙げています。
    (ユニクロの執行役員として)しっかり数字は出さないといけないし。

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■2009年は世界のユニクロを目指す
 ユニクロは、2001年にイギリスへの出店を皮切りに、中国、アメリカ、香港、韓国、フランスと世界市場へ進出しているが、今年はアジア4番目の拠点となるシンガポールへ進出する。

桜子:今後の目標は「ユニクロを世界一のグローバルな企業にすること」だとか。

白井:海外でのユニクロの認知を一層上げていきたいですね。
    私自身含めてもっと世界のことを勉強していかなくてはならない。
    事務所はフランスやロンドン、中国、ニューヨークにもありますので
    現地にいる人達に相談する一方で、あらゆるマーケットを定期的に見ています。

 月1回は海外出張するという、とにかく多忙な彼女にとって、仕事とは何か。最後に質問すると、「やっぱり人生そのもの」という答えだった。燃えるような眼をして語る彼女は10年後いったい何をして、どこにいるのだろう。同じ女性として心からエールを送る。