はつ恋(完結編)

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ビジネス書をよく読むね、と言われたので、吉本ばななの「はつ恋」を読んだ。
彼女は語るに難しい心理状態を丁寧に表現してくれるから好きだ。

(ああ面白かった)と本を閉じたら、高校生の頃を思い出した。
それもちょうどこんな時期だ。

高校二年生の夏休み最終日。
私は1つの宿題忘れに気がついて慌てた。読書感想文である。
ちょうどマスコミ関係の叔父が来ていたので泣きついたら、
俺が書いてやるよ、とサラサラ原稿用紙を埋めてくれた。

事なきを得たが、問題はその後だ。

なんと全校生徒参加型の読書感想文コンクールだったので
銅賞を獲得してしまった。

発表されたときは、さすが叔父、という尊敬の念と共に
名誉を頂いた喜び、そして悪さをした黒さで、
嬉しさ・苦・隠し笑いという面持ちで帰宅した。

そうして親に告げたら、大変な剣幕で叱られてしまった。
それで私もやっと自分のした悪の重さを知り、泣いて猛省をした。

ひっくり返したお盆は元には戻らない。
やってしまった罪は償えない。

泣いてもどうしようもない償いを神様に謝りなさいと親がいうので
日頃は恥ずかしくてできないお祈りも、
(お祈りというのは自分の身を低くすることが要求され、
己を晒け出すので非常に恥ずかしくて昔は人前でお祈りなんて
ゼッタイにできなかった)
悪さの前には恥ずかしいだなんて言ってられないので
隠れるようにして丸くなって謝った。

先生には結局正直に告白することになった。

※余談だが、当時の私は、神様を信じているのか
 信じていないのか、よくわからない半端な状態だった。
 たぶん疎ましく思っていたというのが正直なところだろう。
 (神様、スミマセン)

それで翌日、職員室に行き、先生に告げた。
そうしたら先生は次のご判断をされた。

●君の名前が張り出されているから、いまさら取り消さない。
●表彰式には(君のために、君が恥をかかないように)出てもらう。
●ただし景品は渡さないようにするね。

私は全て覚悟していたのに、なんという処置・・・!
安堵と感謝が広がる。

が、これには後日談がある。表彰式の当日、全校生徒の前で賞状を受け取るべく前へ出て、
列に並んで順番待ちをしていたら、後ろで女の子たちの声がした。

「あたしさあ、カテキョー(=家庭教師)に書いてもらったんだよねー」
「実は、私も・・・」

私はそれを聞いて、ふんぞり返ってしまった。

なんだ、みんなそうなんじゃん?
私ひとり、なんかマジメくさく考えて、ちょっとバカみたいなんじゃないの?
泣いたりなんかしちゃってさ。

と思った。(性格悪くてスミマセン)

家に帰って、つまらなそうにそのことを告げてみたが、
あまり相手にしてもらえなかった。

ただ、後ろめたくないことは良かった。

それで、明けて翌年。高校三年の夏が来た。
昨年の思い出がフラッシュバックしてきたので
今回は絶対に自力でやろう、と気合を入れて取り組んだ。

それが、吉本ばななの「キッチン」。

九月。

「読書感想コンクール、銀賞受賞 筑波組 桜子」

・・・正面玄関に張り出されていた文字に、心底驚いた。
  しかも昨年より1ランク上の銀である。

このとき、私の人生の中で何かが確実に動き出して、

「世の中に神様はいるんじゃないの??」

と思い始めたのだ。