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イギリス最後の日(最終話)

帰国日の朝、空は曇っていた。

 イギリスに来てから連日晴れていたのに、帰る日になって曇りだすなんて、
神様ってばやっぱり私を贔屓してるのね、と悦に入った。(すみません)

 昨晩は滞在中の日々を振り返った。そしたら、夜中3時まで眠れなかった。

 夜遅く、キティが部屋に来て、お土産のお菓子や本をくれ、さらに昼間に
割り勘した日本料理店Wagamamaの昼食代をご馳走したいと言い出した
ほか、寄れなかったアンの家に、明日の朝、家を発つ前に挨拶しに行こう、
と言ってくれた。

 嫌なこともあったが、学ぶことも多い旅だった。

 キティを通して、二人が一つになって幸せを得る、というのは、
互いを理解し、尊重し合うことが必要だ、としみじみ思った。
相手の気もちを重んじるときは、自分の欲望を抑える必要がある。
 
 ということは、結婚とは二人が一つになるわけだから、いかに自分を捨て
相手を大事に扱うか
、ということが非常に重要なファクターになるのだな、
と思い、この先を考えさせられてしまった。

 閑話休題。

翌朝--家を出る20分前に、アンの家へ立ち寄った。
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もう会えないと思っていたアンに会い、メールアドレスをもらって写真を撮った。私は満面の笑みで嬉しさを抑えきれず。
 
 
そして、出発--キティ母(平日は仕事)が土曜日だからと駅まで車で送ってくださった。
目指すはニューキャッスル駅だ。

 駅へ向かう車の中で、私の頬は緩みっぱなしだった。
 
 帰るのがうれしかった。

 でもまたキティに「帰国するのが楽しそうね」等といわれるのはマズい、と思い、
両手で頬を横に引っ張った。

 到着して、出発まで時間があった。
 私はこの駅から約3時間半の急行列車に乗ってロンドン市内に入り、地下鉄を経由して
ロンドン・ヒースロー空港へ行く。長い一日になるなあ・・・と思っていた頃、

 思わぬ話が飛び込んできた。

 たくさんの取材陣と警備員がいた。なんと、こんな(失礼)イギリス北部の田舎駅に、
スコットランドから英首相が今から列車でやってくる、という。

 へー、すごーい

 と、事の重要性をあんまり理解せずに、「写真一枚ぐらい撮れるかなあ」とつぶやいたら、
あら、ぜんぜん平気よ、と言われたので、じゃあ撮影してくるー♪と、デジカメを持って取材陣
の中へ入っていった。

 ブラウン首相って、どういうお顔なのかしら?

 まあ、いいや、皆が騒げば分かるよね、などと思いながら、群れの後ろでカメラを持ち、
両手を上に挙げてシャッターチャンスを狙っていたら、すごいことになった。

 ワーワー キャーキャー

 首相が降りてきたらしい。ジャンプしたがよく見えない。
無駄にシャッターを押したら、ピーピーと音がして、メモリーカードがいっぱいになった。
あああ・・・こんな時に!と焦って必死になって不要と思われる写真をうつむいて削除を
処理していたら、
 背が低いからか、あれよ、あれよ、と人に押されて、気づくと目の前に、英首相が立っていた。

 周囲の雰囲気から察するに、そこは握手、の場であった。(証拠写真ここをクリック)

 信じられない展開だった。英国を発つ日に、その国の最高権威者と握手だ。
 私はなぜか、こういった〝時の人〝と出会う機会には非常に縁というか、運がある。
 (さらにこの日はブラウン首相の問題発言2日後のことであった)

 

 ブラウン首相ったら、わざわざ見送りに来てくれたのかしら?
 彼は私のファンなのかしらね・・・?

 と私が大真面目にいったら、キティ親子に笑われた。

 ハハハハハ(笑)

 --そして、私の列車が経つ時間になった。

 「今まで、お世話になりました。本当にどうもありが・・・・」
 
 と挨拶しかけたら、信じられないことに大粒の涙が出て、泣きだしてしまった。
 まさか泣くとは、これっぽっちも思ってなかったから、自分で自分にビックリだった。

 別れが悲しいはずはなかった。
 
 ストレスは相当たまっていたし、疲れていた。
 だけど、数え切れない恵みと人の出会いと、最後にあった出来事、
 これらが私を圧倒した。
 
 予期せぬエンディングは創造主の偉大なる力であった。
 私は神様を信じている、と普段言っているけれど、ミーハーであり、
 奉仕はあんまり好きじゃないし、祈る力もすごくない。

 けれど、こんなに未熟でダメなクリスチャンですら、神様はいつも見ており、
 自分の力では到底及ばないことをしてくださる。
 神様は確かに生きて働いているんだなあ、と思ったら、感動してんだと思う。
 まさか、泣くなんてね。

 感謝、という一言では言い足りないくらい、色んな意味で、実りが多い旅だった。
 (Fin)

イギリス北部ニューキャッスル

 見知らぬ女性アンは、優しく、また機転の利く人だった。

 別れ際、「知らない人の車に乗ったと聞いたら驚くはずだから」と、キティ家に挨拶すると寄ってくれ、「よかったら明日車で外へ連れてってあげるわ」と申し出てくれた。
 私は彼女の後ろから、ウン、ウン、(行こう)と無言で頷いた。

 だが、キティはどうも乗り気ではなかったようだ。
〝アンと一緒にいたかったら、明日の午後アンの家へ行けばいい〝と言い、〝午前中はニューキャッスルへ行こう(家から列車に乗って約1時間)〝と言う。

朝、起きるのが遅く、時間どおりに行動しない彼女。病気なのか、性格なのか、いずれにしても、期待が長引くと心が病む(聖書)の言葉どおり、それを信じてまた心がどんよりするのは、もう嫌だった。 

「いいよ、ニューキャッスルに行かなくて」と申し出を遠慮したが、
「私、そこで用事があるからどっちにしても行かないといけないの」と言う。

なんだ。用事があるんだ。また自分のためなんだ。
じゃあ、私も本音を言ってもいいよね。 「じゃあ、午後はアンの所へ行くね」

翌朝――
キティは歯が痛むと言った。「まず一緒に歯医者へ行って、
それからニューキャッスルへ行こう」と言い出した。

ああ、まただ。

「ねえねえ、ニューキャッスルは行かなくていいよ。私、ここでお世話に
なっているだけで十分なんだから。今日は午前中は出かけない」

と努めて前向きに応じたら、

「なんですって! 私と過ごす最後の一日なのに!?」

と、瞬間湯沸かし器みたいに形相を変え、自室にバタンと入ってしまった。

なんたるこった。最終日に喧嘩・・・。

その後のことは省略する。結局、私が折れて歯医者に行き、ニューキャッスルへ行った。
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駅で黒いカラスと白いハトを見た。
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左が悪魔で右が神様・・・みたいな気がした。
私はいまどちらを彷徨っているのだろうか。今日はどんな日になるだろう。

ああ、神様、助けて・・・!

 というような、か弱い声は出なかった。そんなことより、神様は
すべてご存じだから、もう〝身を任せよう〝と委ねていた。
この後どうなるだろう、というつぶやきは、他人の話を聞いているかの
ようだった。

 これを信仰と呼ぶか、あるいは怠慢(祈らない罪)というべきか、
どちらになるのかわからなかったが、子供の童謡にもある、
♪かみさまの言う通り♪と思った。

 
 だが、キティは、道すがら、3度も私を試すようなことを言った。

  「桜子、日本に帰るの、楽しみでしょう?」

 ・・・忍耐、だよ、人生は。
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 渋々出かけたニューキャッスルだったが、駅は巨大なショッピングモールと隣接して、
「桜子、どこか、興味がある所ある?」と尋ねられた時は、ない、と答えるのが厳しかった。(ここへ放ってくれたら一日中遊んでいられる自信があるよ、とは言えなかった)

 古い街並みは圧倒的な美しさを放ち、私のテンションは少しずつ上がっていった。

 

 
 お昼時--日本食を食べたい?と、また、冗談のような質問が来た。
 

 頭が悪いのかと思った(ごめんなさい)。

 「私、明日、日本に帰るから、食べたくないよ(笑)でも、キティが食べたいなら一緒にいくよ」と答えたら、

 連れて行かれた。 Japanese restaurant WAGAMAMA wagamama.jpg.png  P1020838.JPG
  お店の前で、にっこりと笑う彼女。ギャグだ、と思った。ブログのオチにしては出来すぎだ。旅に来てからずうっっっと、くすぶってたものの正体が分かった。

 そうだよ、彼女ってXXXXだよね???

 私は神様に興奮しながら語りかけた。

 神様、神様、これはブログネタにするにはすごすぎます。でも、面白すぎるから、私、ぜったいブログに書きます。だけどみんな作り話だと思うでしょうね・・・

 心の中で叫んでいたら、 
 「wagamama大好き!お気に入りなの!」とキティが喜ぶから、
 また可笑しくなって、私はシャッターを切るとき、手が震えそうになった。
 
 ぷぷっと意地の悪い笑い声が洩れた時、ハッとした。
 この笑いは、いやらし過ぎる。人としてあってはならない、と反省した。

 だが、想像もしなかった日本食のレストランのネーミングは激驚き、
 と言う単語はないだろうが、本当に驚いた、の一言だった。

そして、その夜――
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 信じられないことに、私たちの仲は回復した。二人寄り添って、インターネットを見ながら楽しく会話した。朝に喧嘩したことが嘘のようだった。

神様、ありがとうございます。すべてあなたさまのおかげです。

感謝の言葉を、私は手帳に書かずにはいられなかった。

明日はとうとうイギリスを発つ。

 (次回、最終回)