日別アーカイブ: 2021年12月1日

89歳+私+イギリス人講師

先日の日曜、私はマンツーマンの英会話教室へ出かけた。
子供に習い事を薦めているくせに、自分は全く努力しないので、少しは自分も何かを頑張ろうと、週に1,2回のレッスンを数か月前から始めていた。

“How’s your day?”(今日はどんな感じ?)と、毎回聞かれて、Goodや、So so(まあまあ)と答え、すぐ授業に入るのが常と思うが、私はこれを問われるたび、ハッとする。

今日はどんな日だろう?!

そこで私は、今朝受けた突然の電話を、イギリス人講師へシェアした。

 20年前程前に、JTBのイランツアー旅行へ単身参加した折、親しくなった夫妻がいた。帰国後に会うことはなかったが、私の結婚が決まると、大いに喜んでお祝いの品をくださった。そして一年後、主人がテレビで取り上げられるのを偶然見た(例:マツコデラックス深夜番組に出たよ)夫君が、わが家へ電話をくださった。
 ちょうど受話器を取った主人が、「家内は今病院なんです。昨日、娘が産まれまして」と答えたのは、なんと恵まれたタイミングだったろう。
 以来、音沙汰がなかったが、日曜の朝、急に連絡があった。何事かと思ったが、前と同じ世間話だった。「今は89歳、三途の川がもう見えている」と笑う彼の年齢に私は驚いたが、声に張りはあり、若々しかった。
 だが、奥様の安否を確認すると、障害者一級になり、自身も「肺に穴が開いて入院し、退院したばかりだが、もう歩けなくなった」と言う。そして、ひとつだけ、普段と違う話を私に伝えてきた。


「あのね、私があなたのことを忘れられないのはね…」

(はいはい、なんでしょう……。)

「空港で別れるときに、あなたが唯一、私にハグしてくれた人だったから。」

 それを聞いた瞬間、私の頭の中に神様が流れ込んできた。神が、この89歳の老人の脳裏に、ちっぽけな私の記憶を残してくださっていた。先日書いた、中嶋悟じゃあるまいし、生きている価値があるかどうかもわからない私が、彼の思い出に残る栄誉といったら、この上なかった。
 しかしそれは、ひとえに、神の技だろう。すぐさま、聖書の言葉が浮かんだからだ。

【いつまでも残るのは信仰と希望と愛です。その中で一番優れているのが愛です】

 そのハグは愛だったに違いない。わが人生で最良の行動だった、と私はドラマの1シーンのような情景を想像し、うっとりとした。が、講師は言った。

「彼、そのとき何歳?40ぐらい?」

私は性的な意味にとられたのかと思い、一気にげんなりした。

「たぶん70過ぎだったと思うけど…。」

講師は誤解していたのかもしれない。私は彼の妻とも親しく、きっと空港では、婦人にもハグをしたと思う。が、それはさておき、私はこの老夫婦に対して、毎年何かしたいと思いながら、忙しさにかまけて忘れてしまう。今年こそ何かしたい。しかし、何をしよう?!

 そう考えながら、次に礼拝へ出かけた。

 この日は、この後まさか、後で話す予定ではなかったが、外国人へ紹介するのにピッタリの教会へ出かけていた。というのも、そこは英会話教室から近く、英語で聖書のメッセージが行われていて、私は手元にあるプリントの翻訳を見ながら、その話を聞いていたからだ。
 
 この日は「Treasure in Heaven (天にあなた方の宝を積め)」という話だった。
 折しも、前日に私の女友だちから聞いた、大量の豚が崖に落ちて死ぬ話と似ていた。何を言ってるか分からない人のためにまとめると、要するに、神様よりも、この世で大事に握り締めているものがあれば、それを手放せ、というテーマだった。

 「連続して同じような話を聞いたから、私にとって、この世で握り締めている偶像は何だろう」と考えていたところです」と、講師に言うと、「面白い」と言う。
 
「僕も、ちょうど昨夜、イギリスの妹から連絡があって、自宅にある大量の本をどうするか、と聞かれてね…」

 ちょっと話がずれていたと思うが、ともかく、私の行った教会名を彼は、ネットで検索し、まんざらでもない風だった。「僕は無宗教だけど、こういう話は好きだよ。どうもありがとう」と言われた。


 私はレッスン終了後、その日がおかしかった。
一日中、聖書がメインテーマとして流れていて、前日に聞いた女友達も、89歳の紳士も、イギリス人も、私にとって、すべてがシンクロニティ(意味のあるつながり)であった。

by桜子