”How kind you’re!”の感嘆文はこういう場面で使うんだな、と中学英語を思い出しながら、「ありがとう、ありがとう、あなたはとても親切な人ですね!私はなんて幸運でしょう!」とひたすらお礼を言った。
まるで、テレビ東京の『田舎に泊まろう・イギリス編(現在は放送終了)』みたいだな、と思いながら、番組の主人公になった心境だった。思い起こせば、見知らぬ人の車に乗ったことは(確か)なかったはずだが、番組を見慣れていたせいか、よそ様の好意に甘えない選択肢は皆無だった。
そして、海 ---海だよ、海が見えたよ。
「1,2,3」と私はカウントすると、脱兎の如く、彼女の待つ車へ戻った。
送ってあげる、といったアンは、私を待っていた。
なぜなら、海まで行く道中で、私たちはこんな会話をしたからだった。
「ところで、もし私と会わなかったら、あなたは何をする所だったんですか?」
「車でスーパーへ行くとこだったわ」
「・・・ということは、このあと・・・?」
「スーパーよ。スーパーへ行くわ」
「私、実は海とスーパーのどっちへ行こうかと悩んでたんです!」
と話し、「ほんの数秒間だけ海を見たらすぐ戻ってくるから」
と約束して、車が止まった瞬間すぐさま海へと走り出すと、
数を数えて、駐車場へと駆け戻っていったのである。
神様、ありがとう、ありがとう。
私はどちらか一つを選場なくては、と思ったのに、
あなたは私にその両方を与えてくださいました。
ショッピング籠を手にするAnn
(※ショッピング籠は手で持てるほかに、写真のように片側の取手を伸ばしカート使用も可)
お洗濯の色分けシート
(※この紙を一枚洗濯機の中に入れると、白い服に色物の服を混ぜても色が移らないという優れものだとか。円換算して約500円也)
お菓子。
(ついついこういうのは食いしん坊で撮ってしまいます)
そして、最後にアンはこう言った。
「さっきから話を聞いていると、もしかしてあなた、
スコットさんちに泊まってるんじゃない?
スコット夫人は良い人よ。私たち、仲が良いの。
彼女には娘さんがいたわ。娘さん、病気よね。
ふだん滅多に外にいるのを見ないけれど」
アンとキティ・スコットのご近所事情が分からなかったから、私はずっとキティの名は伏せていた。が、関係が良いと聞き、戸惑いながらもええ実は、と事情を簡単に話した。
「初めて日本からこんな田舎まで来て家にいるのは勿体ないわ。
私はもうリタイヤした人間だし、時間はたくさんあるの。
そうだわ、明日私が車で観光にでも連れてってあげましょうか?
大きなショッピングセンターがあるわよ」
私はアンのほっぺにキスしそうになった。最高だ、と思った。
(つづく)