職場の昼休み

昼休みといえば、20代の私にとっては華やかな社交場だった。
銀座が勤務地だった私は、同僚4人と有名なイタリアンを食べ、情報通であった。
皆でワイワイ言いながら、楽しそうにお喋りすることが、今思うと私にとっての義務であった。
外食したかったわけでもない。もっと質素な食事で十分だったのに、そのように過ごしたのは、私に必要な営みであったからである。そうすることで、私は職場に染まっていき、広告代理店で働く女性の心得を学んでいったと思う。

しかし、どの会社にもたいてい一人は変わり者がいる。
わが社(当時)にも、私たちの過ごし方と真逆の地味な先輩がいた。

その人は、昼休みになると、机の上に新聞を広げ、お弁当を一人で食べ、昼休みはもちろん、勤務中もいつも、無愛想であった。おまけに、名字が「影山」といった。本当に、名字の通りの雰囲気で、勉強熱心な姿に尊敬しつつも、暗い先輩だな…、と私はひそかに思っていた。

なんと、そんな私が・・・!

今、その人になっている。
新聞こそ、手元にないが、代わってパソコンとイヤホンをつけながら、お昼を食べているではないか…!

年齢のせいもある。業務の忙しさもある。一人の時間が欲しい、というのもある。
しかし、この姿は、私がもはや20代ではなく、職場に対するトキメキや、着飾ることを全く気にしなくなった、証である。

代わって、そんな私が昼休みに気になるのは、娘のランチタイムである。
この時分、給食がないから、娘は学童でお弁当である。

職場でお弁当のふたを開けた瞬間、彼女のお弁当箱が気になった。
私は会社のレンジで温められるのに、彼女のは冷たい。
ちゃんと美味しいだろうか。

「言葉で表わしきれないときに、愛を象徴してくれるのが食べ物です」  アラン・D・ウォルフェルト

あわせて読みたい関連記事