幼なじみ

先日、新居の電話が初めて鳴った。
私はちょうど会社から帰ったばかりで、慌てて受話器を取った。

「田中さんのお宅ですか?」

聞きなれない女性の声。これはひょっとして--
と勘ぐったら、それはドラマの見過ぎで、単なる私の幼なじみからだった。

「桜子ちゃん、元気!?結婚したんだ、良かった、うれしい、おめでとう!」今回、自分が結婚することになって驚いたことの一つは、
周囲が喜んでくれたことである。

身内は理解しうるのだが、周りの人はどうして喜んでくれるのだろう?

私がさらにすごいなあと思ったのは、年上のシングルウーマンも少なからず喜んでくれたことである。私ならば複雑な思いになるかもしれないのに、私はその懐の広さにも深く感動した。

と、それはさておき、

電話の主は7年以上も疎遠だったが、昼にも電話した、と言う。
彼女が連絡をしてくれたのは、実に100年ぶりぐらいだった。

「ねえねえ、(そこまでしてくれて)なんで喜んでくれるの?」

私は幼なじみの彼女だからこそ聞ける不躾と思える質問をした。
実は私はずっと周りの人にこのことを聞きたかった。

「なんでって、そりゃ、友達がいいことあったら、嬉しいよ。
 桜子ちゃんだってそうでしょう?」

「確かに。」

「私だって、私なりに、桜子ちゃんどうして結婚しないのかなー、って考えてたんだよ。バリバリ仕事やってるから、お眼鏡に叶う人がいないのか、それとも年下に嵌まって貢いでいるんじゃないかと心配してたの」

私は大笑いした。

「毎年、年賀状には”独身街道まっしぐらです”って書いてあるのに、今年は”結婚しました”じゃない?おまけに写真見たら、旦那さんは年上っぽいじゃない?もしかしたら、中学生の子持ちになったんじゃないかと思って・・・」

私は再び笑って、大丈夫、相手も初婚だった、と言った。

「あとさ、渋谷の南平台に住んでるんでしょ。もしかして、桜子ちゃん西武!?」

「西武って??」

「ちがうよ、セレブ!セレブになって美樹の届かない所へ行っちゃったと思ったの!」

こんなベタな話をしてくれるのは、彼女ぐらいなものである。
私はしっかり伝えた。

「全然セレブじゃないよ。今日のランチは自分で作ったよ。普通に地味に暮らしてるよ。」

「なんだー(笑)」

彼女は、なぜ自分を結婚式に呼んでくれなかったのかと私を軽く責めて、
出席したかった、と言ってくれた。

私は、急に決まったから、と返事したが、
本当はすっかり彼女のことは忘れていた。
幼なじみとはいえ、普段、まったく音信不通で、年賀状だけの付き合いになっていたからである。

しかし、こうして再びコンタクトが取れて、お互いに話し合えるのは、幼い頃に親しくしたからこそである。

月日の流れと共に、また改めて、なんだか、心が温かくなった。