英国スーパーマーケット(1)

 カレーライスを作ったあと、午後は徒歩20分先にある海へいこう、とキティが言い、
その前にまず昼食用サンドイッチを買いにスーパーへ行こうということで、その日初めて外へ出た。

 時間はとっくに正午を過ぎ、これまでの経験から、スーパーまでの距離と、海までの距離(双方は正反対に位置)に加え、彼女の疲れやすい体調を思うとき、これは海へ行かない可能性が高いな、と感じた。

 ならば、と私は考えた。
「スーパーでお昼を買ったら、その足で海に行ってランチしよっか?」

 ところが彼女はこう言った。
「うーん、わかんない。スーパーで買った荷物の重さによって決める」

 私が彼女について理解できないのは、こういうところだ。どうして、予め考えてから、行動しないのだろう。
そういった局面は、この旅のいたるところで、しばしばみられた。

 家を出るときはスーパーと海に行こう、と言ったではないか。と言いたい気持ちを抑え、グッと耐えて、気持ちを切り替えた。

 スーパー行きは楽しみだ。
イギリスに来てからずっとスーパーが見たかった。スーパーは、その国の文化や生活を知る場である。アメリカとの違いはあるか、どんな台所用品や食材があるのか、じっくり見ようと思った。P1020798.JPG スーパーマーケット

 しかしその胸算用と裏腹に、キティは用事を済ますとすぐに疲れ、家に帰ることになった。先に帰ってて、と言いたかったが、帰りの道順が分からない。

 しょうがない、一旦帰って、またここに一人で戻ってこよう!

 と、心の中で固く誓うと、てくてくと家に帰り、玄関を開けて荷物を置くなり、
 決心が鈍らないように、自分の意志をすぐさま伝えた。

 「ちょっと1時間ぐらい、散歩してくるね! サンドイッチは海辺で食べるよ!」

 
 ・・・今来た道を戻ってきます、とは言えなかった。まずスーパーへ行き、そしてビーチをみたい。私はもうすぐ日本に帰る。そろそろ外に出て、見たいものを見てもいいんじゃないかな、と考えた。

 
  「夕方になったらビーチへいくのに」と怪訝な顔を彼女は見せたが、
兎もかく、外へ出させてもらった。
 
(※ここでひとつ、なぜ私が外へ自由に出入りしないかと疑問を抱いている方へ
補足する。その理由は、キティが部屋の出入りの度に厳重に施錠するため外出しづらかったということがある。この時も彼女は鍵を開けるのに非協力的で、私はこの家を出るのに5分ぐらい鍵と格闘する時間を要した)

 話を戻す。

 玄関先を出た瞬間、ふと思い出した。そうだ、地図がまったくわからない。私は先ず鞄からペンと紙を取り出した。この家からの道順を記録して出かけなければ道に迷う。
そして、それを終えたとき、残り時間は45分になった。

 ヒマな時間は山ほどあるのにどうして観光時間はいつもこんなに少ないんだ、

と嘆きそうになったが、落ち込んでる暇はない。決めなくては。

 スーパーとビーチの両方が無理なら、どちらを選ぼう?
 物質的な満足より、やはり、精神的な満たしだろう。

 よし、海に行こう!

 ところが、一度もそこへ行ったことはない。
 あっちの方角だ、ということだけは聞いている。
 徒歩20分は確かなのか、確認しなくては・・・

 と思った瞬間、前方に一人の中年女性が現れた。

 「すみません、ここから海まで歩いて何分ですか?」

 すると、思いがけないことに、

 「今から車を出すところだったから、送ってあげるわ」

 と言われた。

 私は、飛びあがらんばかりに 喜んで、飛び乗った。

 (続く)