午前11時、友人の住む南青山へ物を渡しに出かけた。
初めてベビーカーを押して往復1時間半(片道50分)の外出にチャレンジすることにした。
どこまで出来るか不安だ、と夫に言ったら、いざとなったら車で帰ってこい、というので、そりゃそうだ、とドキドキしながら出かけてみた。
今日はさっと行って、さっと帰ってこよう。
私はベビーカーを力強く押して、早歩きをした。
べべは長時間持たないし、天気予報は午後から雨だった。
ところが友人宅に着く頃になると、べべが大声で泣きだし、玄関先で失礼するつもりが、あがらせていただくことになった。もっとも友人は最初から家に入れてくれるつもりだったらしく、快く私を家に招いてくれ、三歳児がべべを抱っこして再会を喜んでくれた。
そして「田中桜子ちゃん、一緒にお昼ご飯を〝あいぽーと〟で食べようよ。」と誘ってくれ、「一人で食べるの寂しいよ」と言うので可笑しくなった。結局、三歳児の誘いを断ることが出来ず、近くで買ったお弁当を青山の子育てひろば「あいぽーと」(※初回の利用費1000円/年)で食べることになった。外苑前にも子供はたくさんいるのである。
しかし、第2子でもない限り、べべのような幼子はいなかった。
赤ちゃん部屋があるというので、べべを寝かせた。
子供たちがべべを見て、赤ちゃんだといって群がってきた。
三歳児のお弁当、昼食タイム。
私もいつかべべに作るのね。
友人がべべをあやしてくれたので、その間にお弁当をかき込んだ。
この子が産まれてから、平日はゆっくり食事が出来ない。
お弁当のカロリーは高そうだったが、揚げ物の衣を外す余裕もなく、何でもいいや、と思って、早く食べた。インフルエンザがちょっと心配だったのである。
そして、べべのオムツを替え、授乳をして、南青山のママさんたちにさよならをした。
南青山のママさんたちは、友人の友なので、私にも大変フレンドリーだった。
彼女たちはべべから癒されると言い、口々に抱っこさせてくれ、と言うので、喜んでべべを渡した。(私の両手はもうかなり酷い腱鞘炎で、食器を洗っても痛い。)
そして、べべが歩き始める前にいつでも来てくれ、良かったら明日でも、今週中でも、と言った。(1歳児のママたちが言うには、歩行前の状態が愛しいそうだ)
帰り道、表参道のナチュラルハウスと紀伊国屋に寄り道したせいで、時間がかかり、べべは泣きだしてしまった。道行く人が振り返るほど泣くので、私もかわいそうになり、ベビーカーを隅に止めてべべを抱き上げ、予備で持っていた抱っこ紐(アプリカのコラン)を装着して抱っこした。
しばらくするとべべが眠るので、そっとベビーカーに戻したら、またしばらくして泣いた。
私はまた抱き上げて、観念して抱っこ紐に乗せ、ベビーカーを押しながら渋谷の坂道を上った。
家に着く頃には息も絶え絶えだった。
ハア、ハア・・・ああ、これで今日が終わったよ・・・とお茶を飲んで一息ついたところで、用事を一つ忘れていたことを思い出した。
最後の力を振り絞って、今度は抱っこ紐だけつけて近所のクリーニング屋さんへ出かけた。
クリーニング屋さんのおばさんは、ママコートに包まれたべべを見て、「あ、寝てる」と言った。
そう、寝てます、さっきまでぐずってましたが・・・。
と言ったら、「今度抱っこさせてくださいね」と仰った。そして、帰り際、「いつでも来てくださいね。話したくなったら寄ってくださいね」と言うので、私が、え!?という顔をしたら、「ほら、お母さんって下手すると誰とも話さない日もあるでしょ。だから、来てください。抱っこしますよ」と言われた。
私は外見上は疲れ切った姿をしていなかったと思う。たぶん一般論で、その女店員は仰ってくださった(と信じたい)。その親切心に、すごくうれしくなった。
そして、気分が良くなったので、スーパーによって少し雑貨品を買い足したら、レジのお姉さんが、ベビー連れだと気づいて袋につめてくれた。
マンションに戻ってきたら、遠くで「田中さん」と声がして、見ると、以前お風呂屋さんでバッタリ会った、1歳児のお母さんがベビーカーとともに立っていた。
そして、べべを見てニコニコ笑ってくれた。
友人と言い、南青山のママさんと言い、クリーニング家さんと言い、スーパーの店員と言い、マンションの住人ママと言い、周囲の触れ合いや、べべを通して知る親切心には、つくづくありがたいものがある。
こうして新米ママは成長し、育まれていくのである。