心配ご無用。

神保町生活、2週目に突入。
相変わらず少ない居室である。今日も一人ぼっちでさびしい。

電車の中で、藤原和博の「人生の教科書〈人間関係〉」を斜め読みする。
面白かったのは、情報収集と情報編集に関する記述である。
情報は収集と編集が大事だが、現代っ子は編集力が欠けているということだった。
昔は地域商店街や近所の方とのコミュニケーションによって、自然と情報編集力が身についたが、今は無言で自動販売機からジュースを買い、会話なくして物が購入できる時代だから、コミュニケーション力が育たず、編集力を学べないということらしかった。

それを読んで、ちょっと、私、まずいんじゃない?と焦る。
このまま会話を(ほとんど)しない生活というのは、私から何かを奪うのではなかろうか?

と思って帰っていったら、そんな心配は不要だとお風呂場で教えてもらった。

なぜにお風呂場かというと・・・うちの会社には2時間休という制度がある。
これは、2時間遅く来たり、2時間早く退社することができるというプチ便利な仕組みである。

今日はその休みが余っていたので、特に用もないのに休むという贅沢をした。
ついでにデトックスしようと温泉に足を延ばす。
そう言うと、山の中みたいだが、昨今流行りの都心にある温泉で、
しかも露天風呂付という優れものが近所にある。

蝉がジリジリと鳴き騒ぐ中、肩までズブズブとつかる。

空を見上げたら、少し影も出て来て、猛暑ながら気持ちよく入れる気温になっていた。
でも、夏は暑い。もう出よう、と思ったら、

「こんにちは」

と明るく声をかけられた。

はい・・・?

焦点を絞ったら、見知らぬ人だった。どう反応すべきか咄嗟に悩む。
顔をみたら悪い人じゃなさそう。

「暑いですねえ」 さらに続く。

アメリカ人のHi!のような気安さに違いない・・・。

私はちょっと考えて、もう一回お風呂に身を沈めることにした。
ここで離れたら、このおばあさんに悪いかな(傷つける?)と思ったので、
少し会話をすることにした。

「そうですねえ」

それで、どうして会話が弾んだのか覚えていないがそのあと、話は延々と続いた。
今でもこのブログにきちんと書けるくらいよく覚えているんだけど、

・おばさんの誕生日が、8月2日で82歳になったこととか、
 (そう見えないですね、と申し上げたらすごく喜ばれた)
・先週木曜は朝からお昼も食べないで寝てたら熱中症だったとか
・娘が会社を早退して氷で全身を冷やして介抱してくれたこととか
・その日は神宮花火大会だったのにいかれなくて見学席をフイにしたとか、

ついには、息子さんがいることまで知ってしまう。

 親身になって話を聞いていたら、私はすっかりゆでだこになっていた。

     ( あ、あつい・・・。)

 「だからね、熱中症には気をつけなくちゃだめよ」

 

 (お、、、おばあさん、それ、私、私っ!!)と必死に心の中で自分を指差す。

 が、向こうにはそれが見えない・・・。

 なんとか話の切れ間を探すのだが、ぜんぜん途切れない。
 私が脱水症になりそう。どうしよう、楽しそうに話をしてくれている。
 それにしてもおばあさん、よくのぼせないな~、
 あれで82って信じられない。すごい元気じゃないか。
 私はちょっと、もう無理かなあ・・・(意識遠のく)

 一度中断に失敗して、再チャレンジ。ついに成功。
 おばあさんは別れ際、こう言った。

 「またね、お元気でお過ごしね」

 頭がくらくらになりながら、
 汗を心配と一緒にシャワーで流した。

 心配ご無用。という、お話。

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