その57:おもちゃ博物館館長・(株)トーイズ代表取締役 北原照久氏

今年はテレビをつけたら暗いニュースばかりが流れ、世の中が本当に不景気だと実感させられる。ならば、せめてインタビューぐらいは明るく楽しくしたい。元気いっぱいの人はいないかなと考えていたら、「桜子ちゃん、そんなときこそ僕! 僕に任せてよ~!」と名乗り出てくださった方がいる。「開運!なんでも鑑定団」のレギュラー鑑定士でおなじみの北原照久氏だ。

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私の今までお会いした方々の中で、ここまで気さくな方と出会ったことはないかも?

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★北原照久さんの簡単なプロフィール
1948年東京中央区京橋出身生まれ。青山学院大学経済学部卒。
(株)トーイズ代表取締役、横浜ブリキのおもちゃ博物館館長。
2006年4月より「横浜人形の家」プロデュース。
2007年度横浜文化賞受賞、ベストジーニスト受賞。

★桜子が勝手に選ぶ、北原照久語録
・義務教育で退学なんて、企業でいえば倒産したようなもの。まるで人間失格だよね。
・周囲にはほら吹きになるんじゃないかと心配されたけど、今を見て。
・みんなさ、人生には辛いことはいっぱいあるんだ。でも100の辛いことがあったら、
101の喜びがある。

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 普段あまりテレビを見ない私は申し訳ないことに初対面で北原氏を存じ上げなかった。てっきり芸能人なのかと思っていたら、とんでもない間違いだった。北原氏はブリキのおもちゃなどを集めている世界的なコレクターだという。

 サザビーズやクリスティーズのオークションカタログには「Kitahara’s Collection Bookの何番と同じコレクション」といった表記があり、ポール・マッカートニーやミック・ジャガーといった有名人とはおもちゃをきっかけに出会っている。おもちゃで世界はこんなに広がるのかという驚きと、おもちゃが持つ奥深さに私はすっかり圧倒され、浮き足立って北原氏のオフィスへうかがうと、机の上には1996年のディズニー映画「トイ・ストーリー」のジョン・ラセター監督のサイン付き写真が置いてあった。

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北原氏のオフィスに多数飾られている玩具(コレクション)

■ハリウッド女優からLoveを3回も言われた
桜子:ハリウッド女優のデミ・ムーアが気に入ったというおもちゃを見たいのですが!

北原:いいですよ。はいこれ。いいでしょう? 動くんですよ。

 ブリキのウサギがカタカタカタと音を鳴らし始めた。あっ、可愛い!! デミもこれを見てさぞ感激しただろう。というのも、彼女自身、ミュージアムを作る夢をもっており、北原氏が館長を務める横浜の「ブリキのおもちゃ博物館」に訪れて、このオフィスにも立ち寄ったことがあるというのだ。

桜子:北原さんはナイキの社長ともお会いしたことがあるそうですね。

北原:それを言ったらもうきりがない。
グラハム・ナッシュ(伝説のロックスター)でしょ、
P・P・Mのマリー・トラバース(シンガー)でしょ……。

 北原氏の交友関係はあまりにも広すぎるので詳細は割愛し、彼の生い立ちからおもちゃとの出会いとを聞いた。

■劣等感を味わい、そこから挽回した子供時代
 北原氏はいわゆる団塊の世代で、1948年に東京の京橋で生まれ育った。4人兄弟の末っ子で小学生の頃は体育以外の成績がほぼオール1。他の兄弟が優秀だったぶん余計に”落ちこぼれ”度合いが目立ったという。

北原:なぜ勉強ができないの? なんて言われてね。なんで僕だけって落ち込んだ。

 ご両親はそんな北原氏を見て、兄弟と比較されないようにと別の地域の中学校へ越境入学させる。だがそこで北原氏の落ちこぼれ度合いは加速してしまう。新しい中学は進学校で、クラス分けは成績順、当然北原氏は最下位のクラスに入った。新しい中学では頑張ろう、と希望に燃えていた北原氏だったが、授業前に担任の先生が全員に言ったことは”他のクラスの邪魔はするな”。子供心にも傷ついて、生活は荒れ、卒業間近には退学までいたった。

北原:義務教育で退学なんて、企業でいえば倒産したようなもの。まるで人間失格だよね。

 そんな北原氏の転機は高校時代。ある日テストで60点をとったのである。

北原:それは三択式の試験だったから。でも先生が「やればできるじゃないか、すごいな!」って喜んで誉めてくれる。それがうれしくってね。それからは机にかじりついた。

 先生の一言は劣等感でいっぱいの彼の心を溶かした。のちに恩師と仰ぐまでになった先生と出会ったのは本郷高校。水泳の北島康介選手や、「こちら亀有駅前派出所」の漫画家である秋本 治氏やアーティストの村上 隆氏も卒業した学校である。

 ちなみに当時どのくらい勉強ができなかったかというと、アルファベットが全部書けなかったというから推して知るべし。だが、ほめられたら頑張るという北原氏の素直な性格が功を成し、高校3年時には総代として卒業するまでになった。

北原:総代ですよ、総代! ビリからトップ!
    それでもう、自信がついちゃって。やればできるって。

■物を大事にする欧州の文化を見てコレクターの道に
 その後、青山学院大学へ合格した北原氏は、さっそく勉学に励もうと意気込んだはいいものの、当時は大学紛争の真っ最中。大学に行ってもそもそも講義が行なわれていない。

 なんて僕はツイていないんだ、と考えていたときに第二の転機が訪れる。北原氏の実家はスポーツ用品店だったため家業を継ぐことを考えていた。それもありご両親からスキー留学を勧められ、オーストリアで感動的な現地生活を体験した。オーストリアで触れた生活の豊かさに心を大きく揺さぶられたのである。

北原:みんな古い物も大事にしているんですよ。「これはお婆ちゃんの代から使っている鍋」なんて話すのを聞いて、ああ、物を大切にするっていいなあって。当時は戦後だったから新品がもてはやされる時代だったし、古い物を捨ててしまう日本の消費文化が恥ずかしくなった。

 帰国後、粗大ゴミにあった古時計を拾い、自宅で油を指してみたらボーンボーンと時報の鐘が動いた。北原照久、20歳にしてコレクターとしてデビューした瞬間だった。

■人にとって重要な3つは、関心・感動・感謝
 北原氏は現在、全国に7カ所の博物館を抱え、海外での展示会のほかに、執筆活動や講演会、テレビ・ラジオ出演など多方面で活躍している。

TOYS.JPG 北原氏の出発地点「横浜TOYS」

TOYSChristmas.JPG 隣接されている「クリスマスTOYS」 

北原:僕、頑張ってるんだよ~! 
    60歳を過ぎて本も2冊出したし、今年の4月には和歌山に新博物館ができる。
    今までサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、フロリダでコレクションを
    展示してきたけど、3月末には香港でも初開催の予定だし、色々やるよ。
    不況をものともしない!

桜子:おおーっ(笑)!

Mr.kitahara's books.JPG 確かに過去こんなに沢山の著書が!

北原:若い頃からあれやる、これやると言ってきたから、
    周囲にはほら吹きになるんじゃないかと心配されたけど、今を見て。
    ぜーんぶ実現した。凄いでしょう?
    コレクターとして成功する保証なんてなかったし、今住んでいる家だって、
    当時は(貧乏だったから)とんでもない夢だったんだ。

>※現在のご自宅は超豪邸。mr.kitahara's house.jpg
現在の会社を始めてすぐの頃に北原氏のコレクションがブルータスに掲載された。その号に載っていたのが現在の自宅。旧宮家の持ち家で8億円の物件と記事中にある。プール付きでヨット乗付け可能という豪邸で、当時の北原氏は憧れを持った
brutus.JPGマガジンハウスのブルータス、懐かしいですね。

brutus2.JPG 当時の記事

桜子:まるで絵に描いたようなサクセスストーリーですよね(@@)!
    あの・・・北原さん、ちょっとおたずねしますけど、挫折を感じたことって今まであります?

北原:何回もあるよ!

桜子:ええっ、あります!?

北原:あるよ。僕がそう見えないのはそう見せないから、というだけ!
    桜子ちゃん、みんなさ、人生には辛いことはいっぱいあるんだ。
    でも100の辛いことがあったら、101の喜びがある。
    1つでも喜びが勝っていると思ったら人は乗り越えられる。
    僕は大変な局面に立つ度にプラスに考えるトレーニングをしてきた。
    これはチャンスなんだ! と自己暗示をかけてきたんだよ。

 プラス思考を持ち続ける鍵は何かと尋ねたら、”3カン王”の話をしてくれた。

北原: ”3カン王”って僕が作った言葉なんだけど、関心・感動・感謝の3つのこと。
    何にでも興味を抱く。良いと思ったらその喜びを素直に声に出して感謝する。
    それをするとね、幸運が舞い込んでくるんだよ。
    たとえば古いおもちゃの収集だってさ、実際にはお金を払えば何でも手に入る
    というわけじゃない。
    だから僕はおもしろいおもちゃを見つけたときは大喜びして骨董屋さんにありがとう!
    と言ってお金を払う。そうすると、次に骨董屋さんが何か見つけたとき、
    僕に声をかけてくれる。この”3カン王”は人にとって重要だよ。

 北原氏は61年間の歩みを通して独自のツキを呼ぶ10カ条や人生哲学がある。読者向けに3つの心得指南をお願いしたら、「3つかー。難しいなー」と仰りつつも即答された。

北原:まず、やってみろよ! だね。石橋を叩く位ならやってみろ、と。
    あと若い人にはやっぱり親孝行しろと言いたい。
    自分の誕生日になったら母親に感謝の気持ちを込めてプレゼントする。
    絶対いいよ!(^^)/ ってね。あとは、物事はプラスに考えなくちゃいけないね。

 本当はもっとあるよ、と地団駄を踏んでおられたので、続きは北原氏の著書
「ぼく流ツキの10箇条」を読んでいただくこととして、最後にこのご時世における生き方を聞いた。

北原:こんな今こそチャップリンが言った
    「(人生に必要なものは)夢と希望とサムマネー(いくらかのお金)」だね。
    僕は100年に1度の不況というあの言葉、大嫌い。
    お前、100年生きたのかよ!? と言いたい。
    日本は関東大震災や第二次世界大戦の敗北、オイルショック、バブルの崩壊、
    神戸大震災と危機に見舞われながら人間の叡智で立ち上がってきたじゃない?
  
    メディアが不況を連呼するからいけないよ。
    口から出た言葉は言霊となってみんなの気持ちを萎縮させ、悪いスパイラルに
    入っちゃう。だから100年に1度の不況というのはね、実はそうでもない。
    100年に1度のチャンスと考えて、ピンチはチャンス! ありがとう!! 
    と言えばいいんだよ。

Mr.Teruhisa Kitahara.JPG サインをくださいました♪

■桜子のちょっと脱線

北原さんは07年のベストジーニスト賞、受賞者なんです。
Mr.kitahara's award.JPG ベストジーニスト賞ってこういうタテらしい。

ズライ猫
mr.kitahara's collection04.JPG 猫イラズ、なんだそうです。
めちゃ、ウケた。