国境の長いトンネルを抜けると、天国であった。(※川端康成の『雪国』をパロって)
私たちは、「試練の長いトンネルを抜けた…」か、分からない。だがここは天国と見間違う。
羊40頭、ニワトリ5羽、犬1匹。
私たちを慰めて余りある大自然は、私たちの失った日々を取り戻すのに十分だった。
ここはオークランド郊外のAirbnbの家。
4日前、すべての荷物を車に乗せ、家を出た。
ずっと思っている。
私たち、呪われてなんか、いない。
すごく、神様に愛されている!
そうでなければ、こんなこと、どうして起こる?
昨日、娘の術後経過を見るために、クリニックへ行った。
すると看護婦が、娘の誕生日を聞いて目を輝かせ、
「あら、うちの娘と同じよ!あなた、きっと優しい子なのね」と言い、
娘の指が痛まないように、この上なく優しく、優しく、包帯を剝がしてくれた。
ああ、神様は、こうやって、人生をいつも彩ってくれる。
看護婦の子供が娘と言うことも、同じ誕生日、という偶然も、
日常のスパイスにしては、効き過ぎている!
そして、今滞在中の家は、「これは君の好みの家に違いない」と夫が懸命に見つけた。
素晴らしい家だ。幸い、オーナーとも親しくなった。
だが、残念なことに、娘の学区から遠いため、私たちは2月1日には出ていく。
その先はどこで暮らす?
まだ、見つからない。
でもきっと見つかる。
新学期が始まる2月1日までは、ここで私たちの居場所だ。
すべての疲れが溶けて流れていく。
もう、部屋の中に閉じこもらなくていい。
朝からひそひそ声で喋らなくていい。
廊下に響く足音に怯えなくていい。
台所で好きな時に、好きな料理を作れる。
お皿を洗わずシンクに食器を置いてても、叱る人は誰もいない。
自分たちだけの空間が、これほどまでに愛おしいとは。
そういう喜びを、この年で知るとは思いもしなかった。
東京で当たり前のように暮らしていた日々こそ極上、と気づく。
人生の中盤で、これを知る。
同時に、ウクライナとロシアの生活に思いを馳せる。
ああ、彼らはいったいどんな日常を過ごしているのだろう。
by桜子