イギリス北東部ノーウィッチ

 3日目の朝、私たちはロンドンを離れ、キティの父が住む北東部のノーウィッチへ移動した。バスや列車を乗り継ぐこと約3時間。その間、兼ねてからメールでは聞きづらかったことを、初めて質問した。

 キティの父・・・ノーウィッチ在住
 キティの母・・・ニューキャッスルでキティと同居

 と聞いている。ご両親は別居中なの?それとも・・?
 そろーり、そろりと尋ねたら、父親は既に新しい家族を築き、15歳の娘もいると言う。

 
 え!?そんなところにお世話になりに行くの!?
 あなたとその奥様やお嬢さんとの関係は大丈夫なの?

 ごくんと唾を飲んだら、全然平気、とキティは答えて、実になんでもないという風だった。だが、いや、全然平気じゃないでしょ、と思った。
 
 もし私が彼女の立場なら、父を取った家族のようなもの。居心地が良いはずはない。
想像力を働かせて、キティの気持ちになってみよう、と考えたが、彼女の心境が汲み取れなかった。

 

 「あと、祖父母もいる」

 
 
 え!?おじいちゃんとおばあちゃん!?聞いてないよ!

 
 目をまんまるにする私がウケたのか、キティは「今朝急に決まったんだよ~」と笑った。キティの父の両親(つまりキティの祖父母)は90歳近い高齢ゆえに、体調の関係で1週間ほど引き取ることが突然決まったのだと言う。
 
 「そんなに大人数が泊まれるなんて、大きな家なんだね」と、私は感心した。

 が、肩身が非常に狭かった。というのも、さらに悪いことにはキティ父の妻側の母が、老衰で入院して、彼女は病院を往復している最中だ、と聞いたからだ。

 なんだか、とんでもなく、忙しい家に行くではないか。

 どんな強面な女性が出てくるのだろう、今から行く家で苛められるのではないか。キティも内心は、わたしのためにと無理をしているのではないだろうか。

 しかし、その心配はなかった。アビーは向日葵のような人だった。

 料理も上手で、イギリス版栗原はるみこと、Delia Smithのレシピから、アップルデザートなど作ってくださり、私は初めてまともなイギリス料理を頂いた。

 それまでキティと二人、冷たいサンドイッチばかりを食べていた。本格的なテーブルダイニングに心安らぎ、私は、何か手伝うことはないですか、と彼女の家事を手伝って、自分の滞在に際し、とても気を使った。

 キティも当然なにかを手伝うだろうと思ったが、一方の彼女はどかんとソファに座ったまま、まったく動かなかった。
 
 どうして、何もしないのか、私には不思議でならなかったが、アビーは一人でも全く困らない感じで家事を切り盛りしていた。

 そんなキティは、長旅に疲れたらしく、7時になって「ちょっと横になるね」と言ったまま、朝まで起きてはこなかった。

(つづく)